ていいちOTP

6 ダビンチ手術(その3)
 大きな手術という怖れもありダビンチ手術の順が巡って来たあとは嬉しいような怖いような期待と不安でいっぱいになりました。しかしもはや待たなくてもいいという安堵感は深いものがありました。平成28年(2016)7月26日に新潟市民病院へ入院しました。入院してからは手術の結果やその後のことなども万事旨くいくと信じていました。私は少年の頃から何かを考えることなしに“信じる”と言うことをしないで過ごしてきたつもりです。自分で考えて納得できないまま信じることは好きではありません。でもこの時ばかりは“信じて”いました。


 手術室の前まで妻が見送ってくれ、中へ入ると中央の通路の左右に沢山の手術室が並んでいました。その中の一室に入りました。麻酔の注射を受ける前にネットで幾度も目にしたダビンチ手術の装置が置かれているのが見えました。
 私は程なく麻酔注射をされ意識が無くなりました。44歳の時(26年前)左腎摘出手術の際もそうでしたが手術中の麻酔は挿管麻酔といって麻酔のガスを吸わせるらしいのです。ガスを吸わせる前に意識を失わせるために注射を打つのです。 手術室へ入る時、もはや待たなくてもよく手術の結果はきっと大丈夫と安心と同時に自分を鼓舞していました。


 手術が終わったことは「ていいちさ~ん!」と呼びかける看護師さんの声でぼんやりと意識できました。事前の説明で手術時間は3~5時間ということでしたから4時間前後だったのでしょう。体はとても重い感じがしました。尿道カテーテル・硬膜外麻酔の管・手術部位から出されている管が繋がれ両脚の膝から下にかけて血栓症予防のため弾性ストッキングを履いていました。手術前の医師の説明の時、締め付けると血流が却って抑制されるのではないかと尋ねますと、河幅の狭いところは流れが速くなるのと同じだという説明でした。


 そうした管や点滴をしている状態ですが、手術の翌日から歩くことができ食事をとることもできました。とても早いと思いました。また毎日傷口の状態を医師が見るのですが消毒液は使いません。ひと頃と違い消毒液が傷口の自然治癒力をも抑制すると認識されるように変わっているのです。
 病院では一応順調に回復し退院が近付いた頃、若い男性の看護師が尿道カテーテルを抜きました。その際、彼はカテーテルを乱暴に一気に抜き、酷く痛みました。私はその看護師の悪意を感じました。


 退院する日の朝、摘出した前立腺の病理検査結果の説明を受けました。前立腺の内部には1mmから6mmのガンが6ケ所あって悪性度(グリソンスコアー)は6という診断でした。針生検では12ケ所の組織を採取しても1本だけが陽性だったわけで、医師は『良く引っ掛かったなぁ』と言いました。針生検の結果はむしろラッキーだったのです。

 しかし心配なこともありました。摘出された前立腺の表面に顔を出しているガンが1個あるというのです。顔を出しているということは体内に破片が残っている可能性が高いということではないか。…医師に話しますと「そうとは限らない。それにグリソンスコアーが6だから」と気楽げに言いました。


 こうして無事にダビンチ手術が終わり、あとは経過観察なのだと安心しました。このあと吻合部狭窄が生じ排尿が困難になるとは思いもしませんでした。

次は 7_全摘手術その後

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