3 ガン見付かる

ていいちOTP

 前立腺針生検から退院してから1週間ほどして県立病院へ通院しました。いつものように診察室の前で長い間待たなければならないのですが、その時間は厳粛でした。ガンが見付からなければいいという気持ちと、まな板の上に載っているのだからもうどうしようもないという気持ちが綯い交ぜでした。

 順番が巡って診察室へ入ると医師は腸壁の確認か「血が出たりしませんか」と軽く尋ねたあと一呼吸おいて「12本の内の1本にガンがあったのです」と言います。もしガンだったらという怖い気持ちとは裏腹に軽いショックを感じただけでした。私は厳しい状況になると、その言葉を耳にしてしばらくは言葉の意味する姿がぼんやりしか感じないでいるのです。少年の頃からそうでした。しかし「…ガンがありました」という言葉が反芻されるにつれて乗数的に胸に食い込んできました。


 ガンがあることが判明し医師が治療について話してくれるのかと思いましたが、そうではありませんでした。医師は淡々と「ガンがどのような状態なのかを確認する検査があります」と言いました。この時悪性度(グリソンスコアー)は中程度の7とのことでした。(のちに新潟市民病院で手術を受けたあとグリソンスコアーは6とされました))医師は淡々と何の感慨もなく説明しました。理屈では十分理解できていても寂しいような、見放されたような気がしました。医師にとっては来る日も来る日も前立腺ガンの患者に対していて、いちいち感慨を交えてはいられないと理解できますが明らかに気持ちが通じないという思いになりました。まるでAIのロボット医師のように感じたのでした。


 それから更に1週間ほどあと体幹部CT(胸部と腰のCT)と骨シンチグラフィー(骨への転移を検出する検査)という検査を受けました。1日で両方の検査をすることができ、どちらも各々の造影剤を注射して装置に横になって画像を得る検査です。検査自体には何の苦痛もありませんが不安と寂しさが募りました。俎上にのるという表現がぴったりしました。

 ただこの頃は体幹部CTも骨シンチグラフィーもどのような検査なのか殆ど理解しようとしませんでした。2つの検査がガンの広がりを知るためとおぼろげに認識していましたが仕組みについてまで理解しようとしませんでした。自分が針生検の結果ガンの存在が確定したという事実がとても重く、どう対応すればいいのかという戸惑いがとても大きく、ただ指示されるままに木偶の坊のように検査を受けていました。
 

 医師は今後の治療について説明をしました。私のような年齢の者にはホルモン療法がいいのではないかと言うのです。手術は若い人向けだというような口ぶりです。ただホルモン療法は効果が無期限に続くわけではなく、人によって3ケ月・6ヶ月・数年・十数年続く場合もあると、そういう話でした。私は深く考えず、ホルモン療法なら睾丸を取ってしまえばいいと考えていましたが効果が続かないなら駄目だと、また睾丸を取れば男性ホルモンが殆ど(全部ではなく)無くなるので、ホルモンバランスが崩れ健康度にも影響が出ることを知りました。これらの情報は殆どネットから得たのです。ネットの情報は全部が正しいものではなく現在に合わなくなっている古い情報もありますが注意深く検索し知識を得るようにしました。


 前立腺ガンではホルモン療法・全摘手術・前立腺の中に小線源を複数本埋め込む方法があります。(2019/04/02 現在では更に選択肢があるようですが)それぞれ特徴があります。(それぞれの良い点不都合な点については情報が数々あります)
 
 私は昔から幾つもの手術を経験していますのでやはり手術でけりをつけたいという思いになりました。手術といっても前立腺はお腹の内臓の一番奥の背中に近い処にあるというので大手術になるのだそうです。しかし従来のように腹を切り開く手術でなくコンピュタ制御の腕を腹に明けた5個の穴から差し入れ医師は患者から離れた処で作業をするというダビィンチ手術を選ぶことにしたのです。

次は 4_ダビンチ手術

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