2 前立腺針生検

ていいちOTP

 PSA値が4.3で〈1泊2日の入院のうえ『前立腺針生検』〉と決定してから1週間余りあとに入院しました。入院するまでの間にネットに噛り付いて情報を集めました。前立腺針生検というのは肛門から器具を入れエコーの画像を見ながら直腸の壁越しに前立腺に針を刺し込んで組織を採取しガンが存在するか否かを確認する検査です。慣れた医師にとっては簡単なオペかも知れませんが患者の立場では複数回体験する人は少ないでしょう。初体験の私にはとても不安でした。


 でもまだこの時、針生検は怖いけれど「おそらくガンじゃないだろう」と思っていました。ただ未知の体験が怖かったのです。ネット検索で『前立腺針生検』を探し回りました。入院から検査~退院まで、そして検査結果を受けるまでの体験が数々見付かりました。その中に『ガッツンと言う音がする瞬間びっくりするような痛みが走る。もう止めてくれ~!て言いたくなった』という書き込みのあるページを見付けました。麻酔をするだろうに、そんなに痛いのだろうか?と思いましたが嘘を書いている訳じゃないだろうと考えるとかなり身構えました。


 しかし逃げる訳にはいかない。息子にも話してみますと「痛い思いをした人だけがネットに書いているんだ。痛くなかった人は書かないんだ」と言います。そうかも知れないと思いましたが気持ちは和らぎませんでした。合理的に考えれば、くよくよと考えても仕方のないことで考えるほど怖さが募るのだと分かるのですが気が小さい私にはじたばたするしかありませんでした。いつもは合理的に考えることを旨としているにも拘らず。


 しかし結果的には息子の言ったとおりでした。不安を抱きながら1週間ほど後に入院しました。“手術室”へ入ると女性が産婦人科で診察を受けるような姿勢で検査が進みました。手術室へ入る前に看護師の女性に『痛くないんでしょうか』と尋ねると『麻酔をしますからね。麻酔の注射が少し傷むかも知れませんね』と言われました。それまでに目を通していた情報では針を刺す回数が色々でしたので、針生検が始まるまでは『できればあまり多く刺されたくないな』と考えていました。しかし麻酔の注射はチクリと痛みましたが覚悟していたので痛いというほどのことでもありません。やがて器具から大きな音がすると同時に前立腺が僅かに押される感じがしました。全然痛みを感じませんでした。前立腺の左側と右側に(前立腺は1個なのですが)6ケ所ずつ計12ヶ所の組織を採取しました。(勿論大腸を空にするため入院前日夜から下剤を飲んで準備をしていました)


 担当の看護師の方も親切に接して下さり気持ちが和らぎました。看護師さんは、例え営業用仕草でも優しくして下さると有り難いと思います。私は明くる日に無事退院しました。検査結果は1週間ほど後に通院して医師から説明を受けることになりました。まるまるこの時はガンでない方の可能性が大きいと考えていましたので針生検の入院が済んで、もうすべて終わったかのように感じていました。

 PSA値が4.3だったと言ってもガンの可能性は30%らしいです。10人の内7人はガンでないということです。私は少年時代から文科系も体育系も10人の中で3番以内に入った経験がありません。100人の内で30番に入ったこともないと思うのです。昔からのそうした順位と病気の可能性とは関係ないかも知れませんが神様はそんな少年の頃からの“事情”も考慮して下さるのではなどと都合のいいことを考えたりしました。いつもは合理的な思考が好きなのに“苦しい時の神頼み”でした。


 その昔、44歳の年にドックで水腎症が見付かり大きな手術をしています。原因はとても珍しい症例の〈馬蹄腎〉でした。胎児は初期の頃、腎臓は一つですが大きくなるにしたがって腎臓が左右2個に分離するそうです。私は腎臓が分離しないで馬蹄のような形のままで成長し、それが原因で左腎から膀胱へ伸びている尿管が捩じれたのが原因とのことでした。左腎は機能を失って800ccの尿で膨らんだまま、それと知らず長年暮らしていたのでした。


 そんな私ですから前立腺ガンでも10人の内の3人に入るのか!まさか水腎症と関係ないだろう。いつもの理屈っぽい思考は何処へやらです。

次は 3_ガンが見付かる

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