ていいちOTP

3_ ライフ 
 3_Life ……NⅢを3年使ったあと同じ店からLifeを購入しました。まだ軽自動車の車検がなかったので車検と乗換とは関係がありません。LifeはNⅢよりも遥かにクルマらしい感じがありエンジン音が静かでした。ホンダがそれまで拘った空冷エンジンをあっさりやめて水冷の新開発のエンジンを載せていました。OHCでカムシャフト駆動をチェーンからベルトに変更していました。ゴム製の歯付きベルトでカムシャフトを回しているので非常に静かでした。
 また2気筒であることから生じる振動をバランスするために別にシャフトを加えて逆回転させて振動を相殺していました。3年使ったNⅢはもちろんまだ使うことができましたが私にとって車は仕事上のストレスをひととき忘れて没頭することのできる趣味の対象でした。妻に無理をいってLifeを購入しました。購入資金の一部をボーナス時期まで待って貰いました。

 販売店の人は熱効率が空冷の方が優れているので燃費はNⅢのほうがいいだろうと言いましたが走ってみるとLifeのほうが燃費が良いのでした。きっと熱効率は理論通りでもミッションのギヤ比がよりクロスレシオ(ギヤの速度守備範囲の重なりが大きい)になっていたのかも知れません。そのため早めにハイギヤへ繋いでもスムーズに走ることができたのかも知れません。

 この車は新潟のSFで整備を依頼することが多かったのですが、ある時ブレーキの修理を終えて豊栄市まで帰宅後ふと後輪のドラムに触れると手で触れないほど熱くなっています。驚いてジャッキで上げるとタイヤが回りません。ブレーキ調整はドラムが回転しなくなるまでシューを開いたあとタイヤが回転しだすまで僅かに戻してOKとするのですが担当者がシューを戻すのを忘れたのでした。ブレーキシューを少し戻してドラムを開けるとブレーキ液が滲み出しています。そのまま工場まで戻るのは躊躇われました。ちょうど部品を持っていましたのでマスタシリンダ内部のピストンカップを交換しました。その作業は失敗すると事故に繋がるのですが慎重にやれば自分でもやることができます。
 …整備士でもブレーキ調整に重大なミスをするのだと思い知りました。私はますます自分で時間をかけて車の整備をしようと考えました。作業に時間が掛っても自分でやればそんなミスをしないと確信できました。

 私がLifeの整備の一部を自分でやるようになった頃、販売店の人が自分の車でもブレーキなどは勝手に分解してはいけないことになっていると言ったことがありました。或いは一度だけはいいが2回以上はいけないという法的な解釈があるらしいともいっていました。それは徐々に車を持つ人たちが増えてきた頃で、整備業界にとっては整備作業をユーザーにやられるのは困るということだったのでしょう。定期的な点検や車検(この頃軽自動車にも車検が義務付けられました)は法的に義務付けられていましたが整備業者に依頼しなければいけないとは定められていません。しかし整備業者は何とか『クルマの整備は自分でやるべきものではない』と思い込ませたかったに違いありません。

 この頃、殆ど毎月〔自動車工学〕という雑誌を購読していました。〔オートメカニック〕という雑誌もよく読みましたが〔自動車工学〕のほうが専門的で中身が濃かったのです。そんな雑誌の記事にCDI点化方式というのを見つけました。そうした記事は用品の長所ばかりが強調されていました。CDIとはCapacitive Discharge Ignitionを略したもので点火系統に機器を取り付けるのです。記事に回路図や部品が記されていて自作もできる記事でした。私は自作しました。
 結果はほんのひと時素晴らしく加速が良くなったことがありましたが一度きりでした。理論的には強力な火花を飛ばす筈のCDIですが実際の性能は満足のいくものではありませんでした。CDIは通常の方式と比べると火花の持続時間が短い欠点があったのです。そのため点火タイミングを正確に合わせるのが困難なのでした。

 Lifeには初めてオーディオを付けました。現在のような高度なものでなく、納車時にラジオだけだったところへカセットテープに録音された音楽を聴けるようにしたものでした。当時は車載のステレオには2種類ありまた。カセット式と“8トラ”式です。8トラとはカセットの3倍ほどの幅のあるテープを大きなケースに入れたものです。テープ幅が大きかった為か音質はとても良かったのです。8トラの音を聴いているとふんわりと夢心地になりました。思えば録音するときに少しエコーを効かせていたようです。
 私は職場に出入りする業者の人から8トラの機器とカセットアダプタを買って自分で車に取り付けました。衰退しつつありましたが8トラの存在感がまだ大きかったのです。カセットには個人が録音できますが8トラはレコードのように既成品だけで、その為か音質が良いように思えました。

 オーディオ機器を購入した業者の人と車に関する話をしている時バッテリの話になりました。その人はバッテリを外して保存するときは冷やさないように古い毛布などに包んで押し入れの中に保存しておくのがいいと云います。成る程と思いました。寒い朝などはバッテリの力が弱くてエンジンが掛り難いことがよくありました。エンジンが掛ればエンジンルームが温まるのでバッテリの力が十分発揮されます。
 バッテリは化学反応で電力を取り出しているので低温には弱いわけです。エンジンが掛り難い冷えた朝などバッテリに直接お湯を掛けて温めると効果が大きいという人がいて試したことがありました。でもこれは失敗でした。能力の落ちたバッテリを直接温めると能力が戻り力強くエンジンが始動できますが、その日は雪深い日で通勤路へ出るまでに渋滞に巻き込まれました。あまりにも動かないのでエンジンを切って待ちました。暫くして前方が動き始めた気配にエンジンを掛けようとしましたがセルモーターが回りません。力なくグィ~というだけです。当時はブースターケーブルをクルマに持っていたので横の人にお願いしてエンジンを始動しました。
 寒い日にバッテリだけを温めて応急的にエンジンを始動できてもバッテリの温度が冷めれば再び始動できなくなるのです。

 そんなことがあって、ふとバッテリ保存のやり方を思いだしました。オーディオを買った業者の人がいう『バッテリを温かい状態で保存しておけばいい』というのは思い違いだと気付きました。車載状態で使用するときはバッテリの温度が高い方が化学反応が活発になるので能力を発揮できますが、保存するときは液が凍らない範囲で冷えた状態のほうが化学反応が弱くなるので自然放電が少なくなる筈です。それを業者の人に話すとちょっと怪訝な表情をしましたが反論しませんでした。理論的には正解に違いないと思います。

 このLifeでのドライブで印象に残るものがあります。当時、もっぱら国民宿舎を利用して旅行をしていました。時期的には夏と12月に出掛けることが多かったのです。その年も残り少なくなった頃Lifeで出掛けました。
 行先は男鹿半島でした。早朝の出発で真っ暗です。大粒の硬い雪が降っている朝でした。勿論スノータイヤですがタイヤチェーンも積んでいました。国道7号線を北へ北へと走りました。酒田市を過ぎる頃、空が明るくなり始めました。辺り一面が真白ですから太陽が顔を出さなくても明るくなり始めると一気に明るくなります。その日は真っ直ぐに男鹿半島の付け根近辺にある〔国民宿舎石倉荘〕へ向かう予定でしたが意外に早く羽後本荘まで到達しました。時刻が早いのでコースを変えて迂回してみようと思い立ちました。
 変更したのは本荘から東へ山越えをして横手へ向かうコースです。地図を見て急に思い立ちましたので山越えの道路だとは意識していませんでした。走るにつれて山深くなりました。私は面白くてなりません。
 雪のない地方から雪国へやって来て5年経っていましたが雪が怖いとは考えませんでした。烈しく雪が降り始めた頃、急坂に差し掛かりアクセルを踏むとタイヤがスリップし始めました。仕方なく準備してあるチェーンを駆動輪である前輪へ取り付けようとしました。作業している時、幾度も滑ってひっくり返りました。その道路はブルドーザで除雪してあり、削った面が非常に滑り易くなっていたのです。その上に雪積があり除雪面が隠れていたのでした。

 チェーンを着け終わって走ると滑ることなく嘘のように快適に走りました。タイヤが路面を捉えることができれば問題なく走ります。長い山道を走り続けて十文字という交差点へ辿りついた頃は雪がやんでいました。昼食を摂ったあと暫らくしてチェーンを外しました。雪のない路面ではチェーンは酷く邪魔になるものです。のちに職場の先輩に本荘から横手まで降雪期に走ったことを話すと
「よくそんな道路へ入って行ったものだねぇ」と驚かれました。あの道路は幹線道路でしたので除雪が行き届いていましたが除雪が間に合わず降り積もったままの状態なら山の中でタイヤを取られて身動きできなくなっていたかも知れません。

 ライフを使って未だ2年経ってなかったにも拘らずCivicに乗り換えたのは理由がありました。ライフの走行性能や使い心地に問題があった訳でありませんが一つだけ信じられない不具合があったのです。
 それは、運転席側のガラスを上下するときに上部のサッシにぴったりと上がり切らず始終やり直さなければいけなかったのです。幾度もSFに依頼しましたが直らず私は自分で判断してレギュレターがおかしいのではないかと幾度も主張し新しいレギュレターをクレーム部品として貰って自分で取り付けました。しかし症状は直りませんでした。
 ガッカリして更に原因を探しました。そして最後に解決しました。不具合はドアパネル内部の2本のサッシの間隔が広過ぎたのです。片方のサッシを取り外しドアパネルのサッシ取り付け穴の位置を動かしました。すると症状はきちんと直ったのでした。
 そんなこともありライフは良い車でしたが愛着が薄かったのです。現在の車ではそうした取り付け穴でなく設計どおりの位置に雌ネジが溶接されているので取り付け位置の変更は不可能です。また不具合など生じないように誤差の許容範囲を小さく設計されているに違いありません。

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