58 上品とは

ていいちOTP

 趣味が少ないほうではないと思っています。簡単なクルマの定期点検、部品交換、ドライブ、ハイキング、文章を書く、音楽を聴く、美術館など…。しかし冬になり雪が降る季節になるとその殆どができなくなります。
厳寒期には暴風雪という予報も珍しくありませんからドライブやハイキングはできません。美術館などへ出掛けるにもクルマを走らせるのが億劫になります。何しろ氷雪路での運転では雪のない路の何倍も神経を使ってしまうからです。クルマの整備の真似事なども屋外の気温が氷点下になる時期にはやらないほうが身のためです。設備の整ったプロの整備工場ではありませんから、寒さに震えながらの作業になり、失敗の危険が大きくなります。

 そういうわけで冬は録画しておいた番組を見ることが多くなっています。最近では比較的新しい映画なども放送されますので有り難いのです。NHKの番組ならCMがありませんし民放でも録画しておけばCMを手軽に飛ばすことができるので便利です。なにしろ一昔前のようにビデオテープを使う録画ではなく内臓HDDにデジタルで記録でき、その操作も表示された番組表から希望の放送を選択するだけですから簡単この上なしです。

 映画やドラマは少し構えて観る〈作品〉が多いのですが、そればかりでなく時間つぶしに観る番組もあります。
 金曜日の夕刻(新潟県、平成27年1月現在)になると〈爆報 the フライデー〉があります。これは往年のアイドルやタレントなど芸能界の有名人だった人が現在どのように過ごしているかをテーマにしています。時にはスポーツ界で活躍した人も取り上げています。いずれにしても“往年活躍していて”いつの間にか表舞台から消えた人を追跡するのです。この番組はどう考えても趣味がよくありません。興味本位で人の噂話をするのが悪趣味なのと同じです。しかし往年の有名人が番組の取材に応じなければ番組作品は成立しない筈ですから、もし出演料を得るために人々の野次馬根性に晒されているとすれば同情を禁じえません。

 こういう人々の野次馬根性を満足させる番組は、深く考えたりしなければ単純に面白いものです。1994年4月から始まった〈なんでも鑑定団〉も同じ種類の面白さです。しかしどちらも品があるとは言い難い内容ですから、これらの番組が好きだとおおっぴらに言うのは気が引けます。しかし気が引けても、ふと素直に自分の心に問いかけると鑑定団も爆報も楽しいと思わない訳にはいかないのです。
 残念なことではありますが、きっと誰でも品のない野次馬根性を満足させることを面白いと感じるのです。でも同時に少しシンドイ気持ちにもなることに気付きます。

 過去に天上の暮らしをしているように見えた有名人が貧しくなっているのを見ると正直悪い気がしません。恵まれた容貌や本人の努力によらない幸運があったように見える場合は尚のこと悪い気がしないのです。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものです。
 ところが不思議なことに暫くのあいだ品のない原色の感情に身を任せていると次第に“つまらない気持ち”が芽生え始めるのが分かります。きっと原色では夢や希望が見えなくなるからだと思うのです。人生の長い路を行くには夢や希望なしでは耐えられないからだと思うのです。夢や希望を内包している姿こそ“上品”ということなのだと思い至ります。上品であることは必ずしも他の人々と比べることではありません。

 社会の中で暮らしていれば他の人々と比較したい気持ちをゼロにすることは無理ですが比較ばかりでは明日への希望がありません。言い換えれば自身の信条・人生哲学が生まれる余地がありません。人生は長いのですからやはり原色だけでは夢がなさすぎます。原色は初め楽しく飽きやすく次第にシンドク辛くなります。

 できれば人生哲学をしっかり持って夢を抱きながら上品に暮らすことができれば素晴らしいと思います。しかし品のない感情も決して否定しません。むしろ時々奥にある原色の感情を自覚して愛おしむことも大切です。本来人間も持ち合わせている原色の感情を長いあいだ押し殺して過ごせば人格が破綻することでしょう。そう考えると趣味がいいとは思えない番組を楽しむのも決して悪くありません。真面目な信条はとても大切ですが、人には原色を見つめて過ごす時間も同じくらい重要かもしれません。

 『品がある』というのは或いは『格好いいこと』ですから、お上品過ぎるのはむしろ品がありません。さりとて原色が目立つのは下品です。わざとらしくない程度の格好良さこそ真に品のある姿でしょう。


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