49 ネコが好き

ていいちOTP

 ペットに対する思いは人それぞれです。それは社会の文化によっても過去の経験からも違ってきます。経験といえばとくに幼児期や子供時代の思い出が強く残ります。その頃に怖い思いをした動物には生涯印象を変えることが難しくなるのかも知れません。

 我が家にはネコがいます。初めての完全室内飼い?でもあります。昔から犬は繋がれていたもので猫は自由に内と外を出入りするものだと思っていましたが、近年は完全室内飼いをするのが“良識的”なのだそうです。種類はどこにでもいるトラネコです。このネコは4代目になります。ネコも人間と同じように、それぞれ個性があります。健康に優れたものやそうでないのがあります。

 最初に飼ったネコは……我が家はみんなネコがとても好きで、実は飼うという表現をしたくないのです。我が家に入ってきた時から大切な家族になってきました。ですから、表現を柔らかくします。そう、ネコの柔らかい体のように…。

 最初に一緒に暮らした“ミー”は2年余りで尿路結石に罹りました。病院でカテーテルを挿入しておしっこを出して貰ったあと時間をかけて一旦回復したのですが、再発の憂き目をみて亡くなりました。
 その間に引っ越しをしたのですが、このミーは引っ越しで最後に家を出る時、私たちよりも一足先にアパートの階段を下り、開いていたバックドアからクルマに飛び乗りました。それまでもクルマに乗せたことがありましたがネコは床が揺れることを嫌うようで、クルマは元来苦手な筈なのですが。この様子を見てから“犬は人に付くが猫は家に付く”というのは本当ではないと知りました。

 2番目の“ミー”は最初と同じシャムでした。このミーはショップで売れ残っていて顔つきが少しきつかったのです。でも家族になれば可愛いもので随分沢山の幸せを残してくれました。ミーは狩りの名人で頻繁に雀を捕って帰ってきました。ある日など大型の鳥を捕まえて戻ってきてビックリしました。この時はミーの口から離し逃がしてやりました。雀の場合は、なんと羽根ごと全部食べました。床に羽根が1枚だけ落ちているのでした。
 他のネコと喧嘩して大怪我をして戻ってくることも普段のことでした。それでもミーは20年と8ヶ月生き抜いて亡くなりました。その冬の寒い日、炬燵に体を半分入れて眠るようにして逝きました。

 3番目の“ミミ”は三毛猫でした。このミミは体の弱い仔で食が細く一緒に暮らすようになって半年ほどして食事を摂らなくなりました。獣医さんからもらってきた高栄養の缶詰を無理やり口に入れましたが、それも嫌がるようになりやむなく死を待つ以外に方途がなくなりました。折角一緒に暮らした仔でしたが生後1年を待たずに逝ってしまいました。

 4番目の“ミミ”が現在一緒に暮らしている“何処にでも居る”トラネコです。このミミは玄関のチャイムが鳴ると一目散に逃げ隠れます。どんなトラウマなのか、きっと『ピンポーン』のあとに怖いことを経験したのでしょう。町の動物保護管理センターのホームページに載った画像を見て、貰いに行ったのですが同じトラの雄と一緒にいました。同じ家からセンターへやって来たとのことでした。私たちはメスのほうを貰ったのです。一緒にいた弟妹と離されて、帰るとき残されたほうの仔と叫ぶような声で鳴き合いました。生まれた家で親と離され、さらに弟妹が引き離され互いに叫び合っていた姿を覚えています。
 ペットの親から生まれた運命なので仕方がないのですが、その分私たちと一緒に幸せに暮らして欲しいものです。とはいえ近年の良識とされる“完全室内飼い”で外の世界は窓から見ているだけです。時々不注意から“脱走”することもあるのですが、興味深いことに庭などでは表情も硬く緊張気味で、すぐに戻ってきます。
 このミミは今までになく健康です。抱き上げると柔らかくてしなやかです。とても皮下が厚そうです。ミミは大人になってから下半身の太さが目立つようになりました。また両脚の筋肉がとても太く走る姿がまるで馬のようです。

 一緒に暮らすようになったのは生後3ヶ月の頃でした。まだ掌にかろうじて乗る程度の大きさでした。その頃ビックリ仰天したことがあります。…夕食後、窓のカーテンを閉めていました。窓の下に机があり、ミミは興味深そうにカーテンの閉まった窓を見上げています。ミミを新しい家族として微笑ましい気持ちで見ていました。
 そしてパソコンのキーボードを弄ったあとミミのほうを見ると、なんとカーテン上部の木製レールの上を歩いていたのでした。その間2秒もありません。一瞬のうちにレースのカーテンをてっぺんまでよじ登ったのです。
 いくらネコといっても生後3ヶ月の仔が垂直のフニャフニャしたカーテンを一瞬のうちに上り詰めて円柱状のレールの上を歩くなんて信じられない光景でした。直ぐに捕まえて叱りつけました。そのあと2度と同じことをやりません。これも驚きです。きちんと“学習”したのでした。

 妻が始終声をかけ毎日ブラシをしてやります。ミミは妻が大好きになりました。そして邪気なく自分の好きな人に素直に好意を表現します。そんな嘘のないところも心地よいのです。
 妻がミミと戯れながら家具の隙間で前転をするように練習させました。上手くできると手を叩いて褒めます。暫くするとミミは自分から“ゴロン”をするようになりました。「ゴロンは!」と言葉掛けして前転を促します。同じ部屋にいて知らんぷりしていると何度も繰り返してゴロンをやって見せるようになり、今では隙間がなくても床でゴロンを見せるようになっています。
 そんな良い仔のミミですが一つだけ都合の悪いことがあります。ミミは1日に2回ウンコをします。健康なもので部屋を汚すことはないのですがトイレの目配りを忘れることができません。尤もトイレは洗面所の流しの下にあるので自然と目が行くので心配はないのですが。

 ネコには表情筋がないとのことです。でも一緒に暮らしていると表情の違いが分かります。或は表情筋でなく眼の“表情”なのかも知れません。ミミはトラ猫で目が黄色系です。興味があると明るい場所でも丸く大きな目になります。そんな黒目がちな目でじっと見詰めます。
 ところでネコの瞳は明るい処では縦に細くなるので黒目でなくなるように思いますが実は目全部が人間でいう黒目です。日本人などは虹彩の色が暗らめの色なので黒目、白人の中には青目を持つ人がいます。…で、ミミは黄目というわけです。人間の“白目”に当たる部分は外からは見えないのです。

 一般にネコは独立心が強く人間に懐きにくいとか、犬と違って“芸”をしないとか、「ネコの場合人間がネコと仲良しであると誤解をし、犬の場合は犬のほうが人間と仲良しだと誤解をしている」などとも言われてきました。しかしそれは、猫をネズミ退治の道具として扱い、犬を泥棒除けの番犬として扱っていた時代のことに違いありません。猫や犬を家族と感じていなければ、猫や犬だって人間を家族だとは感じないのは当たり前なのです。

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