45 熱狂すること

ていいちOTP

  現在(2014/02/17)メディアではオリンピック一色のようです。スノーボードやスキーのジャンプなどで次々とメダルを取ったことが報道され、日本人みんなが誇らしく感じています。

 ロシアのソチで開催されている冬季オリンピックが日本中の関心を集め、テレビでは深夜に生中継が行われ昼間も録画された映像が繰り返し放映されています。オリンピックでメダルを獲得した選手が表彰台に立ったとき日本の国旗や〈君が代〉が素直に心に沁み込み誇らしく感じるのです。オリンピックともなると、どの競技でもその卓越した技は超人的と言ってよいレベルで、まるでスーパーマンのようです。

 しかし4年毎のオリンピックではいつも少し戸惑いも感じてしまうのです。テレビや新聞でこれほどにオリンピックが連日報道されると日本中で“場”が出現したようになり、“場”を読まないとなんだか悪いことをしているような雰囲気を感じてしまうのです。いつも楽しみにしている番組がオリンピックに置き換わってしまうのも不満です。だからと言って、ちょっとした『オリンピック公害』だなどと言えば袋叩きに遭いそうです。

 どんな社会でもマイノリティに対して違和感を持ってしまうのが普通の人です。それが苛めに繋がる場合もあります。日本では互いに目の前の相手を批判しないことを良しとしてきました。いわゆる“場”の雰囲気をソフトに保つことを大切にしてきたのです。少し変だ?と感じても分からないふりをしてきました。

 一方自分たちのコミュニティーの外に少しでも違った格好や考え方を見付けると遠慮なく相手を批判しがちです。苛めが始まるのは概ねそんな風ではないでしょうか。「日本人は親切で礼儀正しく勤勉で他人にも優しい」というのは日本人同士か或いはそれに近い人間関係を築いている人たち同士に限られる場合が多いのです。それは戦争の時代を考えれば否定することはできないと思います。

 以前なにかで読んだのですがアメリカの学校では、生徒が多数とは異なる意見・考え方をした場合、まずは称賛するのだそうです。そのあと本人の考え方に役立つような示唆を与えるのだといいます。アメリカでも苛めはあるようですが“教えるスタンス”が日本とは違うようです。一長一短があると思いますがノーベル賞を受賞するような業績はマイノリティに属する人が世間の常識に拘ることなく進めた研究の成果であるという事実を誰しも認めざるを得ません。

 一方、日本の社会では人々が大勢に与することが余りに多いようです。“場”を読み過ぎ、世間と違うことを嫌い、孤立を恐れます。そんなスタンスはブームを生じさせ易いと言えます。そのため、一旦何かのブームが生じると台風の渦のようにブームが成長します。ブームに乗っていると安心でもあります。何故なら自分のスタンスに説明を求める人が現れないからです。ブームに乗っている人は、それがぴったり自分の感性を刺激してくれると感じているかもしれませんが、本当は自己の感性よりも“渦”の中にいる安心感に癒されているだけかも知れません。「それが悪いのか」と叱られれば、素直に叱られている他ありませんが…。

 このように考えてみたのは、先日来メディアをを賑わしている佐村河内守さんの厚顔無恥な欺きの人生も日本人の特徴的なスタンスと大いに関係があると思ったからです。佐村河内さんの“活躍”を一つのメディアが取り上げると、どのメディアも後れを取ることを恐れたのでしょう。そして人々もすぐ熱くなり佐村河内ブームが発生しました。昔から日本人は熱しやすく冷めやすいと外国人から評されてきましたが、まさにそのとおりです。私たちが“場”の雰囲気に乗るのが好きだからです。多少自分の感性と違っていると感じても斜に構えたり背を向けたりするのは面倒に思えるからではないでしょうか。

 佐村河内さんもゴーストライターによる作品で社会的に認められた為、あとに引けなくなったのかも知れません。2014年2月6日の新垣隆さんの記者会見は佐村河内さんやそのファンなど音楽関係者にとって爆弾会見となりましたが、その9ケ月前、新垣さんはゴーストをやめたいと伝えていたのだそうです。刑事ドラマなら、新垣さんは殺される役回りになりますが、新垣さんによれば佐村河内さんは譜面を読めずピアノの技量も極めて初歩的だというのですから、刑事ドラマでも先のことを考えればゴーストライターを亡きものにするわけにはいかない状況です。なんという危うい綱渡りだったのでしょう。そんな人生を歩もうとする意志の力に感心します。

 佐村河内さんがブームにならなければ…、私たちが作曲者にまつわる話題に感動し過ぎなければ…、2013年5月に新垣さんがゴーストをやめると伝えた時、「自殺をする…」などと悲壮な返答をせずに「もう作曲活動をやめた」と、多少の違和感が生じたとしても、世間に思わせることができた可能性があります。
 私たちが何かに熱狂してブームが引き起こされるとき、何事であっても“真実”は“偽り”に近づいていくと思うのです。

 新垣隆さんが記者会見(14/02/06)をしたあと現在(14/02/19)まで佐村河内さんの会見は未だありません。(14/03/07記、本日佐村河内さんの会見がある予定です)


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