42 美味しい?まずい?

ていいちOTP

  いつの頃からか、NHK地上波の〈視点論点〉を見るようになりました。早朝の再放送を録画予約しておいて随時見るのです。〈視点論点〉では各ジャンルの著名な、或いは学識のある人が10分間、独自のテーマに沿って話をします。話の中身はNHKだけに中立的です。テーマによって左右に偏らざるを得ない場合はほぼ連続して双方の立場の人を出演させています。
 たった10分間の不特定多数が見る番組ですから専門的な内容であっても、とても分り易く論じているので気楽に見ることができ“なるほど”と考えさせられ興味深いものです。

 先日、中村桂子さんという年配の女性が〈科学者が人間であること〉というテーマで話をされていました。実はこのテーマは彼女の著作の一つの題名でもあります。彼女は〔JT生命誌研究館館長〕とテレビ画面に表示され、如何にも明晰でしかも優しそうに見えましたので検索すると私よりも9歳年長で東大理学部化学科を卒業された、いわゆる理系女(リケジョ)でした。
 中村桂子さんは“学問的アプローチ”と“市井の生活者としてのアプローチ”をともに重視すべきであると話されていました。学者が、学問的に理路整然と論じて市井のいわば人生の現場に生活する人たちの生の声を軽んじるような態度を否定するとともに、日々の暮らしに精いっぱいの人たちが、学者の偉そうな“理屈”など人生の現場には役に立たないと考える態度も否定しておられました。“人間として”日々を過ごす立場と“科学者として”学究的に過ごす立場の双方を必要で欠くことができない大切なものとしたいというのでした。

 お話の中で“賞味期限”について触れられていて興味深く聴きました。〈賞味期限〉は企業独自で設定しているとはいえ一応科学的に決められています。しかしものによっては例え賞味期限が過ぎていても、自分の鼻で臭いをかぎ目で見て判断して食べることもあると言われていました。我が意を得た思いで聴きました。
〈賞味期限〉がいつ頃登場したのかはっきりしませんが賞味期限が過ぎる“前”にコンビニなどの弁当がディスプレイから取り除けられ廃棄されるなどというのを耳にすると罪深いと思ってしまうのです。何の信仰も持ちませんが、それでも罰当たりとも傲慢とも感じないではいられません。

 子供の頃、冷蔵庫などなく食べ物は自分の鼻で臭いをかぎ、怪しければ小片を舌にのせて食べることができるか否かを判断していました。それで概ね問題はありませんでした。
 先日、NHKの〈ためしてガッテン〉で『腐敗したものを食べても食中毒になるとは限らない…私たちは同じ腐敗でも香りが好い場合を“発酵”と称しています』と説明していました。確かにガッテンしました。

 そんなことを考えているとき(2013/10)に阪急阪神ホテルズの食材の偽装表示問題が大きなニュースになり、テレビなどのメディアで連日取り上げられました。コメンテーターはまるで鬼の首でも取ったように当該ホテルを弾劾していました。その4ケ月前には東京ディズニーリゾートの3ホテルでも食材の偽装表示問題が発覚していました。しかし最近(2013/11)では同じような食材偽装表示があちこちの施設でカミングアウトされています。ドンドン偽装表示を白状し始めているのです。
 昨日(2013/11/10)〈真相報道バンキシャ〉でも取り上げられていました。偽装表示のメイン食材はエビだといいます。外国から各種のエビが輸入されていて偽装表示は、車エビとブラックタイガー、芝エビとバナメイエビ、伊勢エビとロブスター等々です。

 番組では2種類のエビを同じ調理法で試食していました。レポーターは違いがないに等しいと言い、プロの料理人でも個別に提供されれば判別しづらいと言いました。私はロブスターの和名が伊勢エビだと思っていました。おそらく同じ種が生息する環境の違いで永い年月を経て僅かに異なったものです。
 また今回の食材偽装問題で成型肉と牛脂注入肉というものを知りました。非常に興味深いと思いました。知識がなければ安い肉というだけの認識です。こうした肉は偽装というよりも日本で肉の需要が拡大してきた頃、肉を廉く市場に出したいという業界の要望から“発明”されたものに違いありません。それは欺くというよりも庶民にとってはむしろ朗報だったでしょう。

 成型肉が内臓肉などを使用していると知って少し引きたくなりましたが、牛脂注入肉というのは巧いアイデアだと感心しました。テレビで映像が流れましたが大型の注射器のようなものが剣山状に並んでいる機械が赤い肉の上部から何度も落ちてきます。すると赤肉があたかも霜降り肉のように変身するのです。すごい技術です。牛肉に牛脂を注入するのですから全然問題ありません。
 もっとも最近は男女とも老いも若きも痩身が健康に良いとされ脂肪が身に付くことを忌避する傾向にあることを思えば不思議な技術ではあります。しかし長年日本では健康に良い赤肉よりも口当たりの良い霜降り肉が好まれてきたので需要に合ったすごい技術といってよいでしょう。

 エビに関しては、「業界では大型のエビを車エビと、小型のエビを芝エビと称するのが慣習だった…」とプロの料理人が口にしている映像が紹介されていましたが、あながち悪質だとも思えませんでした。そのほうがお客に対して印象が良いという功利があったにしても悪質というほどではないと思います。レストランは店を利用する人々が名称に拘泥するために“偽装”してしまったのです。料理を食べるときは自分の味覚を信頼すべきです。

 基本的に私たちはモノの効用に対して代金を支払います。それが食べ物なら“味”や“量”に満足できるかどうかが問題です。食材による微妙な違いが判り、その違いが許せない程なのかどうか。そう考えると提供する者が偽装表示をするのも、料理を楽しんだ人たちが偽装だと声高に主張するのも、どこか基本的におかしいのです。ひょっとするとメディアが話題性を思って飛びついたのが発端だったのかも知れません。

 それにしても一連の偽装表示が露見したのは何故だろうと思います。そのことも興味深いのです。やはり内部告発でしょうか。正義感に基づく行動なのでしょうか。上に対する憤懣なのでしょうか。いずれにしても企業の利益を損なう行動ではあります。派遣社員などを利用して人件費を抑えようとする企業の姿勢がもたらしたものかも知れません。
 もうひとつ、最近(2013/11)連日のように有名ホテルや料理店が食材偽装をカミングアウトしている状況は異様です。後になるほど非難され難くなるとはいえ、黙っていれば分らないだろうにとも思ってしまいます。

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