40 オリンピック

ていいちOTP

  2013年9月7日、2020年のオリンピック開催地が東京と決定しました。テレビ中継では、「2020、東京」と書かれた用紙が待ち受ける人々の前に示された瞬間、その場の日本人が大喜びしている姿が映し出されました。最終選考でスペインのマドリッド、トルコのイスタンブールと競り合ったのでした。東京でも人々が躍り上がらんばかりにして喜んでいる姿が報道されています。テレビ局はどこもオリンピック東京決定を報じ、コメンテーターは満面の笑みを浮かべて解説していました。

 しかしそんな熱っぽい雰囲気が盛り上がるほどに落ち着かなくなり不安にもなります。オリンピック招致運動が始まった時から醒めていたのですが、7年後の開催地が東京に決定したとき、我が国の行く末に危なっかしさを覚えたのです。オリンピック開催は7年後のことではありますが、東日本大震災の復興も緒についたばかりで、未曽有な原発事故の後始末では放射性物質のコントロールが困難を極めていて、それどころではないと思えるのです。

 開催地決定前の映像では各国の報道記者が福島原発の汚染水や放射能問題について懸念する質問がありました。ニュースでは福島の汚染水問題について阿部首相が『大丈夫』と太鼓判を押したことが奏功したのではないかと報じています。記者団はまた福島の原発事故による放射能の影響について質問をしていましたが、それに対して「福島は東京から250キロ近く離れているので安全だ」と答えていました。
 「東京が原発事故現場から遠く離れているから安心」などというのは日本全国の原発が大都市から遠く離れた場所にある理由を図らずも明示したといえます。事故が起こったときを想定して人口密度が小さく行政機能がほとんどない場所に建設しているのです。そのような原発の危険を誰もが知っていた筈ですが、原発立地付近の人々は不確実な想定を基にした安全神話を半ば信じて意識下に潜在させて暮らしていたのです。しかし安全神話が嘘だったことを思い知って辛い毎日を過ごしているのです。
 福島の被災者にとってオリンピック招致に関して東京が原発事故現場から遠いので安全だという説明は到底受け入れ難いでしょう。


 阿部首相が汚染水問題について「大丈夫」と説明したことも、その根拠を疑わざるを得ません。巨大なタンクが福島第一原発に無数に並んでいます。毎日毎日増え続ける汚染水を貯蔵するためのタンクの群れです。原発に溜まった高濃度の放射性物質を含んだ水に地下水が流れ込んでいるため無限に増え続ける汚染水を貯蔵しなければなりません。そしてそのタンクからも汚染水が漏れ始めています。対策として地下水が混じりこまないように事故原発の周囲をぐるりと取り囲むように凍土壁を建設しようというのですが現時点で250億円もの費用が必要なのだといいます。また数年後に出来上がったとしても凍土壁を凍土のまま維持するには常時信じられないほどの電力が必要になるに違いありません。しかも凍土壁は“試行的”作業で、確実に旨くいくとは限らないのです。さらに旨くいったとしても本当の廃炉作業はそのあとの巨大な“マイナスからゼロへのプロジェクト”です。
 そんな状態で“汚染水問題は大丈夫”と首相が宣言するとは、またそれを聞いたIOCのメンバーが信頼に足る発言だと信じるとは呆れた常識外れというほかはありません。
 そもそもオリンピック開催地を決めるのに、どうして招致合戦が繰り広げられるのでしょうか。今更近代オリンピックの父といわれるクーベルタンの言葉をどうこうといっても詮無いことですが、現代ではオリンピックの神髄である『アマチュアスポーツの祭典』は名目でしかないでしょう。オリンピックの経済効果が30兆円という記事が新聞にりましたが、まさにそれが毎回繰り広げられる招致合戦の理由です。本当に30兆円の経済効果があり、それが東日本大震災の復興に有効に回るなら、原発事故の収束にその金が回されるなら、有り難いことだと言わなければなりません。しかしオリンピックで日本人が湧いている様子を見ると、もはや福島の復興のこと・原発事故の収束がおぼつかないことなど、すっかり忘れられているように感じられるのです。

 現在の日本人は何事につけ浮かれている場合ではありません。国土が小さく山岳地が多い日本で、広大な町や村が原発事故のせいで廃墟と化し、事故を起こした原発は放射能のため後始末が進まないばかりか汚染水を止める作業すら巨額をつぎ込んで“試行”せざるを得ないという時に、オリンピックで浮かれているというのは“ひとの痛みを理解しない”人間のやることだと思うのです。

 東京でのオリンピックは2回目になります。1回目の東京オリンピックのとき、まだ19歳でした。戦後まだ19年しか経っていませんでしたが、それやこれや“我知らず”少し浮き立つ心地がしたものです。日本人の胸には『明日への希望』が確かに存在していました。しかし現在(2013/09/11)の日本は『福島の明日をどうするか、1000兆円の借金財政をどうするか』という厳粛な事実があります。オリンピック開催の準備に競技場その他を建設するお金を被災者の仮設住宅解消などに回すべきだと考えてしまうのです。

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