32 ウォークマン

ていいちOTP

  (以下の文章の中の技術的内容についての言及は素人の私が精いっぱい理解しようとしたことです。誤解があるかも知れません)
 遥かな昔ウォークマンを使っていたことがあります。あの頃から、もう20年あまりも経ちます。職場に出入りしていた業者の方にお願いして手に入れました。当時のハイクラスのカセット式のウォークマン(WM-DD9)で筐体が頑丈でどっしりしていました。イヤホンはダイナミック式のもの(MDR-E575)が付属していました。音質は非常によく、別の機器では気づかない音が聞こえてきて驚きました。しかしカセットテープのウォークマンは現在ではもう“遺物”です。

 近年、身のまわりの機器が次々とデジタル化されました。例えば音楽はCDになった時からデジタルに変わりました。そしてCDウォークマンが造られ、更に記録メディアを小さくしたMDプレーヤーが出現することになります。CDはcompact disc、MDはmini discの頭文字をとった呼称です。CDやMDはレコード盤と比べればもちろん、カセットテープと比べても扱いが簡単で何より非接触で音をひろうことができるのが画期的でした。

 しかし反面CDになった時から音の中身が変わったといいます。昔のレコード盤と違ってなにかと使い勝手のよいCDですが、あの大きさ故にアナログメディアと同じ情報を記録することはできず人間の耳に聞こえない(筈の)音域(周波数)を省いて記録されています。でも聞こえない筈といっても現実には存在している周波数であり、人間はそれを耳以外で“感じて”いるかもしれません。それをCDでは失くしていますので、聞こえない音域を“感じる”ことができません。またMDでは更に聞える音までも間引いて容量を小さくしているらしいのです。

 そういう省略の技術を使わなければならないのは、ひとえにCDやMDが物理的に小さいことが理由です。CDやMDでは回転する盤面に眼に見えないサイズの無数の凹が円周を描くように存在しているといいます。それがデジタルの1と0の信号になっています。でも限られた面積に記録するのでどうしても限界があります。その制約を超えるために円盤以外のフラッシュメモリに音楽データを記録するようになったのです。そしてその前提として不揮発性のフラッシュメモリのコストが下がることと、回転する円盤からと同様にフラッシュメモリからデータを拾うことができるソフトを開発すること、の2つがあったに違いありません。

 コストについてはSDメモリカードに代表されるフラッシュメモリの価格低下で既にクリアできたとみてよいでしょう。記録容量もどんどん大きくなり、もはや爆発的といってもいいくらいです。デジタルデータを同じ面積の記録面に書き込むのですから記録密度を上げる技術が高度になったに違いありません。データを書き込む“セクタ”の数が倍に、さらに倍にと進化しています。  デジタルデータなのでセクタの面積が小さくなっても、[1]あるいは[0]の情報([ON]あるいは[OFF]の情報)を記録するのに不都合がないのかもしれません。こうして高密度化技術によりに容量が大きくなった不揮発性のフラッシュメモリが最近のウォークマンに代表されるデジタル オーディオ プレーヤーに利用されているのです。

 先日、人生2度目の〈ウォークマン〉を手に入れました。(これです。こちらのクリップは別売りです)どんなDOP(デジタル オーディオ プレーヤー)が良いかとネットで探しているときは画像も見ていましたが、ケイタイくらいの大きさだろうと思っていました。ところが近隣の量販店で実際に見ておどろきました。何しろ板チョコのひと切れほどしかありません。昔のカセット式の頑丈な筐体のものを思い出すと 「こんなモノでいい音が出るわけがない」と思える代物でした。しかしこの“板チョコ”にイヤホンをつないで音楽を聴いてみて驚きました。素晴らしくよい音がします。まるで信じられませんでした。

 実はウォークマンが欲しいと思ったのは、それまで使っていた安物のイヤホンの音に飽きて、ちょっと背伸びしたイヤホンを手に入れたからでした。
 1年ほど前までは20年あまりも昔の“カセットウォークマン”に付属していたとても良い音のするイヤホン(MDR-E575)を使っていました。
 ところがそのイヤホンは一緒に暮らしている猫に齧られてしまいゴミになりました。そのあと似たようなイヤホンを買ってきて同じ音楽を聴いてみると、なんとも腑抜けたような音がするばかりなのでした。それで初めて捨てたものの品質の良さに気づいたのでした。
 しばらくは諦めていましたが、やはり昔のようによい音のイヤホンで音楽を聴きたいと思うようになり、ソニーのイヤホン(これです)を選びました。バランスドアーマチャ式の製品です。イヤホン内に中音用、高音用、低音用のバランスドアーマチャが入っています。以前はダイナミック式がなじみ深かったのです。ダイナミック式はスピーカーを小さくした構造です。

 今回のイヤホンで聴くと楽器や声楽がくっきり分解されて聞こえてきます。これほどならウォークマンにつなげば“本格的に”音楽を楽しめると思いました。がぜんウォークマンが欲しくなりました。
 ウォークマンはソニーの登録商標で、DOPであればソニーに拘らなかったのですが結果的にウォークマンになりました。購入したウォークマンは容量が4GBです。CD1枚は650MBですから単純に計算するとCD6枚足らずの音楽データを保存することができます。その時々に好きな音楽を出し入れできますので、これで十分過ぎるほどですが、ウォークマンへ楽曲を出し入れするのに使う〈]アプリ〉という(ソフト)でデータを圧縮することができますので更に多くの楽曲を常時ウォークマンのメモリーに保存しておくことができます。
 〈]アプリ〉では可逆圧縮で音楽データを保存することもでき、それがすごいのです。つまり保存データはCD録音よりも小さな容量ですが再生するとCDと同じになるのです。デジタル技術の進歩がすごいと驚きます。

 そして忘れてはいけないのは、ソニーに限らずデジタル製品は機器としてのハードの技術だけではあたかも空洞の脳を持つ人間と同じで役に立たないということです。脳の空洞を埋めるのは機器に具体的な動きを指令するためのシステムファイルです。これらはファームウェアと呼ばれています。物理的な機器はハードウェア(hard ware)、ハードウェアに指令するシステムファイルはファームウェア(firm ware)、DOPでは楽曲ファイルがソフトウェア(soft ware)というわけです。

 最後に、アナログの時代に無かったものは、ファームウェアです。もちろんハードウェアもソフトウェアもアナログ時代とは品質のレベルが違っています。

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