16 軽cars

ていいちOTP

  随分昔、とても奇妙な一コマ漫画を見たことがあります。車道に横断歩道が掛っている絵ですが車道の方がが階段状になっていて歩道の下を潜っています。だから横断歩道は階段なしで水平に渡れるという漫画でした。
 自動車の為に人がなぜ階段を上がり下りしなければいけないのか、自動車のほうが階段で潜ればいいじゃないかと皮肉っていました。吹き出しは「ざまぁみろ」でした。描かれているクルマは乗用車で、運転手が階段状に下がっている道路の手前で困惑している絵でした。

 我国でクルマが普及しだしたのは昭和40年以降でしょう。横断歩道が出現するのは富裕層がマイカーを持ち始め、トラックと共に増えてきた頃です。庶民には妬ましいクルマのせいで道路を渡るのに階段の上り下りを強いられるのが理不尽で、あの漫画が痛快に思えたのです。
 でも昭和40年代の半ばになると普通の人でも少し無理をすれば《クルマのある暮らし》が可能になりました。
 軽自動車が各社から発売されたからです。排気量が360tで非力なうえに騒音が凄く普通乗用車とは比較もできない製品でしたが、その気になればいつでも何処へでも行くことができ、間違いなく《クルマのある暮らし》が可能になりました。軽自動車は日本のモータリゼーションを飛躍させました。評論家から歪な規格と評されましたが、なにしろ《夢のマイカー》が庶民にぐっと近付いたのです。そして「ざまぁみろ」という漫画の訴求力は希薄になりました。

 軽自動車は日本だけの規格で全長・全幅・全高とエンジン排気量に上限があります。数度規格改定があり大きくなりましたが、全高以外は普通車と比べて窮屈です。その代わり自動車税・自動車重量税が格安です。
 自動車賠償責任保険も任意保険も少し廉くなっています。高速道路料金も同様です。燃費はリッターカーとほぼ同じですが排気量が小さいので走行性能は劣っていました。
 でも最近の軽自動車はその高品質に驚きます。走行性能も登坂時以外は殆ど不足がありません。乗り心地も飛躍的に良くなり以前とは雲泥の差があります。そんな高性能なクルマですから大切に長く使いたいと思いますが、現在でも新車に替えるサイクルが短い人が多いのです。

 長く使っていると、ある時期から突然交換部品が増えます。修理の頻度が上がると不安になります。それが車検と重なると費用も高額になります。そんな時、展示されている新車に魅かれます。新車に買い替えれば総て解決すると錯覚します。
 しかしクルマはあちこちの修理が一巡すれば劇的に出費が減るのです。ちょうど家庭の電気製品がある時期に次々と寿命を迎えるのに似ています。
 書店で「クルマを10年10万キロ…」などと長く使うことをテーマにした書籍を見かけますが、普通に手入れをして普通に使えば軽自動車でも15年、15万キロも可能です。我が家の軽自動車は14年以上使いましたが、未だシャンとした状態でした。でもマフラー交換が必要になり、14年使えば罰は当らないと、思い切って…新型車の魅力に負けました。

 昔からクルマが好きで部品交換などをDIYで楽しんできました。昭和50年代後半からユーザー車検派になりました。運転も趣味にしてきましたが所謂暴走には興味がありません。高速で走れば痛快ですが万一のことを思うと怖いのです。
 以前2年ほど好きな車の運転を生かして社会福祉協議会の高齢者向け弁当配達の運転ボランティアをしていました。ある日、愛車の軽自動車で配達を終えて郊外から戻る際、速度違反で検挙されました。17年ぶりです。時速66キロで走行しました。両側が田と畑の直線路です。規制速度が50キロでした。

 普通の人は危険な場所では良識で速度を落とします。危険を感じない場所でついアクセルを踏みます。警察官でも非番なら同じでしょう。以前、依頼に応じて違反をもみ消していた年配の警察官がスケープゴートで懲戒免職にされ、そのあと本人が次々と関係者の名を連ねました。

 普通の人を検挙するため運転者がつい速度を上げそうな場所で取締りに気付かれないよう工夫しています。そしてレーダーから速度が印字された紙切れが出てくれば証拠になり検挙実績がカウントできます。
 『ネズミとり』のあと、規制速度プラス10キロで走るようにしています。それ以来、後を走るクルマが団子状態になっています。助手席の妻が
 「あなた、これからずっとこんな風に走るつもり?10年に1度くらい捕まっても仕方がないと割り切って普通に走ればいいじゃないの!」といってじれったがります。

 ところで『ネズミとり』に対抗して、『レーダー探知機』という取締り機のレーダー波を手前で探知する機器を使うと一応《普通に走る》ことができました。でも最近は目視で狙ったクルマが接近してからレーダーをONにしています。このステルス方式と呼ばれる取締りでは従来の探知機が役立ちません。そこでGPS付きの探知機を購入しました。これは過去の取締まりポイントや安全走行に関する助言をアナウンスする製品です。
 しかし考えてみれば過去の情報は万全とは限りません。その為、探知機のアナウンスはその都度取締まりを自覚するだけという皮肉な結果になりました。ですから相変わらず団子の先頭になって走っています。

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